TOP MAGAZINE エシカルという価値観が、新しい『幸せのものさし』になる社会をめざして ― エシカル協会代表理事・末吉里花さん×Love&sense高津玉枝対談

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エシカルという価値観が、新しい『幸せのものさし』になる社会をめざして ― エシカル協会代表理事・末吉里花さん×Love&sense高津玉枝対談

フェアトレードのセレクトショップLove&seneでは、毎年日本橋髙島屋でポップアップショップを行っています。

今年はその会場内で、一般社団法人エシカル協会代表理事・末吉里花さんとLove&sense代表・高津玉枝とのトークイベントを開催しました。

末吉さんはTBS系『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして世界各地をめぐるなかで、貧困や環境汚染などの問題を目の当たりにしたといいます。
この経験から、現在は持続可能な社会の実現をめざし、エシカルな考え方やライフスタイルの普及活動を展開。5月にはエシカルを取り巻く国内外の動向を幅広くまとめた日本初の白書『エシカル白書2022-2023』を協会として刊行されました。

エシカル消費の意義や「大人のエシカル」の魅力、活動を続けるモチベーションの源泉……盛り上がったトークの一部をお届けします。

(トークイベントは、日本橋髙島屋のLove&senseポップアップショップイベント内で開催しました)

一般社団法人 エシカル協会

エシカルの本質について自ら考え、 行動し、変化を起こす人々を育み、 そうした人々と共に、エシカルな暮らし方が「幸せのものさし」となっている持続可能な世界の実現を目指す団体です。2010年から活動を開始し、2015年に法人化。日本におけるエシカルのパイオニア的存在として、さまざまな啓蒙活動を行っています。

「エシカル」とは、人や社会、生き物、環境などに対して、思いやりのある考え方や行動をすること

日本橋髙島屋のLove&senseポップアップショップイベント内で開催

高津:最初に、末吉さんがどのような活動をされているかお話しいただけますか。

末吉:2015年にエシカル協会を設立しまして、エシカルな考えや暮らし方を日本全国の皆様にお伝えする活動を行っています。

「エシカル(ethical)」は直訳すると「倫理的な」という意味で、人や社会、生き物、環境などに思いやりのある考え方や行動を指します。
エシカルは形容詞なので後ろにさまざまな名詞を続けることで、各分野における倫理的な行動を意味するようになるんです。
たとえばエシカル消費やエシカルファッション、エシカル金融、エシカルライフスタイルなど多岐に渡るテーマがあります。

高津:幅広い分野に直結するので、どんな人にとっても当てはまる部分がきっとありますよね。

末吉:そう思います。もともとエシカル消費という考え方が生まれたのは、私たちが日々ものを消費する裏側で、いろいろな問題が起きているからなんです。

消費者はそうした問題を簡単には見ることができませんが、私たちが知ろうとすることが問題解決の一歩になるはずです。

高津:ものがつくられる背景には、大きな問題がいくつも絡み合って深刻化していますよね。
私がLove&senseを立ち上げたのも、ものの裏側で起きている問題、つまり深刻な貧困や児童労働、気候変動などを見てしまったのがきっかけでした。

すると、日々の買い物がもしかしたら誰かの犠牲の上に成り立っているのではないかと考えるようになって。Love&senseの活動を始めたのは、消費の裏側にある問題を多くの方に知ってもらいたい、という気持ちからでした。

末吉:Love&senseさんが扱う商品のようにステキなファッションやアクセサリーが、知ることの入り口になるのは、本当にすばらしいと思います。

ファッション業界もエシカルの方向へ

高津:さまざまな問題のなかで、末吉さんが一番重視しているものは何ですか。

末吉最も重要なのは環境問題だと考えています。社会活動も経済活動も、持続可能で健康な地球環境の上に成り立っていますので。

高津:同感です。特に気候変動は深刻な状態ですよね。
カンボジアの生産者の方が、雨季になると集中豪雨などで村中が水浸しになり、洪水の中で生活しているようだと話していました。
近年、その期間が長期化しているそうです。

末吉:途上国や先住民の方々はまさに深刻な打撃を受けています。ある調査によると、急激な寒暖差の影響でこれからもものづくりを続けていけるのか、不安を感じているつくり手が多いそうです。たとえば、マンゴーを育てるのに必要な水が不足したり、アクセサリーの素材となる部品の値段なども高騰しているそうで、苦労が多いようです。

気候変動は生産者たちの暮らしに大きな影響を与えており、健康を害するつくり手も増えているのが現実だと思います。
実はファッション業界も、環境にものすごく負荷を与えていますよね。

高津:そうですね。アパレル業界では毎シーズン新しいデザインを発表することが当たり前で、そのためシーズン遅れや、余った商品などの廃棄量も多く、世界で2番目に環境に負荷をかけている産業とも言われています。

Love&senseのオリジナルシャツマルコシャツは、同じデザインで、ワンサイズのものを販売し続けることで、シーズンごとの売れ残りがありません。
また、以前購入していただいたシャツの染め直しキャンペーンなどもおこない、一着を長く大事に使ってもらう提案をしています。

末吉:いま、世界や日本のファッション業界はエシカルの方向へ大きく変わろうとしています。

こうした流れは政府や企業、民間団体などから起きていますが、やはり私たち生活者や消費者の声がなければ本当に変わることはできないと思います。

フェアトレード認証コットンを100%使用したシーズンレス、エイジレスなエシカルカットソー「マルコシャツ」

エシカルを新しい『幸せのものさし』に

高津:一人ひとりが普段から環境を守る行動を取ることはとても大切ですが、すべてをエシカルなライフスタイルに変えるのは難しいですよね。
身につけるものを全部エシカル品にするのは、私でも無理です。

末吉:本当に、私も無理です。

高津:Love&senseが大切にしている考え方は、無理に買う必要はない、ということ。
長く使ってもらいたいので、気に入った品物を買っていただきたい
身につけるもののうち1つでも2つでもいいので、気に入ったエシカルアイテムがあれば取り入れてほしい、というスタンスです。

ものを購入するときに何に価値を感じどんな基準で選ぶかは一人ひとり異なりますよね。

デザイナーへのリスペクトであったり、素材への愛着であったり。

そのなかで、「購入することが誰かの笑顔につながること」を、ひとつの価値として考えてくださる方が増えていくといいな、と思っています。

プルタブをリサイクルして編んだスタイリッシュなバッグ。ブラジルの貧困地域の女性たちが手づくりしています。  商品はこちらよりご購入いただけます。

末吉「エシカル」が物を選ぶときの新しい価値や基準になっていくといいですね。私たちは「幸せのものさし」と呼んでいるのですが、自分の幸せだけではない幸せを、ものさしにしていけるような社会になったらうれしいです。

ただ、こうした考え方を広めるには、エシカルなものやサービスに生活者がアクセスできる環境が必要です。
エシカル製品やフェアトレード品を提供されているLove&senseさんのようなブランドがあることは、私たちにとっても非常に心強いです。

プルタブバッグを愛用されている末吉さん。エシカル消費を伝える動画の中でも紹介してくださっています

高津:ありがとうございます。Love&senseでは毎年日本橋高島屋でポップアップショップを開催しているのですが、今年は「大人のエシカルなファッションブランドに出会う」をテーマに掲げました。

「大人のエシカル」と聞いて、末吉さんはどのようなイメージを抱きますか?

末吉:インテリジェンス、知性という言葉を連想します。

大人だからこそ、ものを選ぶときにエシカルな価値観を持つ。

ファッションは自己表現のひとつですし、身につけて楽しむだけではなく、エシカルを知らない人に考え方を届ける力にも、会話のスタートにもなりますよね。

高津:グローバルに活躍するビジネスウーマンの集まりに参加したときに印象的だったことがあります。
女性なのでお互いが身につけているものを「それ素敵ね」と褒め合ったりしますよね。
そのなかで、みなさん
「これはどこどこの民族による伝統刺繍のブレスレットなの」「信頼しているNGOから買ったフェアトレード品なの」
と話されていたんです。

トップクラスの方々は普段からエシカルな視点でものを選んでいるんだな、時代は変わってきているな、とうれしくなりました。

ここまで続けてこられたのはお客様の共感があったから

末吉エシカルやフェアトレードのブランドを長く続けることはとても大変なことだと思います。
ここまで続けてこられた秘訣は何でしょうか。

高津:秘訣というわけではないですが、理由は2つあると思います。

1つはものづくりの裏側にある厳しい背景をお客様が知ることで、エシカルやフェアトレードという考え方に共感してくださること。
すると、お客様がまたお客様を呼んでくださる。本当に皆さんに支えていただいています。

もう1つは製品に関して妥協しないこと。
途上国でものづくりをするのは本当に大変です。
デザインどおりにつくれなかったり、そもそも検品プロセスが文化として根付いていなかったり。
ただ、日本の皆さんは良質な製品に日々触れて、ファッションセンスも磨かれています。

なので「かわいそうだから買ってあげよう」という理由で購入するのは、1回や2回はあっても3回目はないんですよね。
ですから皆さんが欲しいと思うものをつくることが大切なんです。でも本当に大変です(笑)。

タグア椰子といわれる天然の素材を使ったアクセサリー。素材の特性を生かしたデザインに

末吉:生産者の方々とのつながりも大きいのではないでしょうか。

高津つくり手さんには励まされることが本当に多いですね。

たとえばあるカンボジアの生産者さんは、子どもの頃に地雷の被害を受けて義足なのですけれど、縫製やデザインを勉強して、ご主人と会社を経営しています。

それで車いすの人たちに縫製のお仕事を提供していて。多くのつくり手さんの生活は厳しいですが、彼らが自分たちよりさらに貧しい人に対して何ができるのか真剣に考えている姿に接すると、いつも背筋が伸びる思いです。

末吉日頃私たちを突き動かすのも、生産者さんの存在や物語なのでよくわかります。

Love&senseさんが扱っているような製品を根っこまでたどっていくと、たくさんのストーリーに出会いますよね。

カンボジアのパートナー。障がいがあることを感じさせない行動力に脱帽

「あなたが活動を止めたら、あなたは問題の一部になる。でも、活動を続けていけば、あなたは解決の一部になれる」

高津:末吉さんは今年『エシカル白書 2022-2023』を刊行されましたね。
データが豊富ですし、専門家のメッセージも大変読み応えがあります。

末吉:ありがとうございます。さまざまな分野の第一人者の方に執筆協力をいただきました。

白書には、エシカルをめぐって現在日本や世界で起こっている動きや、エシカルな行動の実践例をたくさん掲載しています。
ぜひ手に取っていただけたらうれしいです。

高津:エシカル協会では、さまざまなテーマについて専門家から直に学べる「エシカル・コンシェルジュ講座」も開いていますね。

末吉まずは知ることが第一歩だと思いますので、関心がある方がいたらぜひ受けていただきたいです。
それと、講座を通じてエシカルな社会の実現を目指す仲間がたくさんできることも大きなメリットだと思います。

高津:世界が広がりそうですね。末吉さん、最後に皆さんにメッセージをいただけますか。

末吉:エシカルの普及活動は悩むことが多いですが、以前パタゴニアの創業者であるイヴォン・シュイナードさんにこんな言葉をかけていただきました。

「もしあなたが活動を止めてしまったら、あなたは問題の一部になる。でも、もしがんばって活動を続けていけば、あなたは問題の解決の一部になれる。人の価値は、何を言うかではなく、何をするかで決まるのだ」。

要は行動あるのみ、です。この言葉に支えられて今も活動しています。

今日、皆さんがこうやってお話を聞いてくださったり、商品を購入したりというのは、まさに立派な行動だと思います。

ぜひお買い物を楽しんでいただけたらうれしいです。一緒にがんばりましょう。

一般社団法人 エシカル協会さんのご案内

エシカル協会では、エシカルの本質について自ら考え、 行動し、変化を起こす人々を育み、 そうした人々と共に、エシカルな暮らし方が幸せのものさしとなっている持続可能な世界の実現を目指します。

一般社団法人エシカル協会は、2010年から代表の末吉里花が中心となってフェアトレード・コンシェルジュ講座(現エシカル・コンシェルジュ講座)を毎年開いたことをきっかけに、受講生たちのネットワークを強化。フェアトレード・コンシェルジュ第一期生の仲間2人と一緒に、2015年11月11日に法人として設立しました。設立当時、エシカルと名のつく団体は他になく、日本におけるエシカルのパイオニア的存在としてエシカルの活動や流れを牽引しています。

HP:https://ethicaljapan.org/
Instagram: https://www.instagram.com/ethical_association/

博多阪急Love&senseポップアップショップのご案内

場所:博多阪急1F メディアステージ
期間:9/21(水)~27(火)
※最終日は18時まで
※営業日・営業時間につきましては博多阪急HPをご覧ください。

詳しくはこちら

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(文・透谷凛/編集・飛田恵美子


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